静岡県職員組合
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法規対策部

 
 
⑤がん治療と仕事との両立(その一)
2020-05-10
――がん治療と仕事との両立①――
 
 前回(2018年度)採り上げたのは「発達障害」でした。今回は、「がん治療と仕事との両立」に光を当てます。
 「国民の2人に1人は、一生のうちに1回はがんになる」と言われています。かつてのイメージは「不治の病」。しかし、近年の診断技術や治療方法の進歩により生存率が向上し、「長く付き合う病気(慢性疾患)」として取り扱われることも増えてきたようです。がん治療をしながら、仕事を続ける者が増える中、それを後押しするように国も「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」(2016年公表、2019年改訂)を公表しています。
 本県にも、がん治療をしながら働く職員が確実に存在しています。けれども、その実態はなかなか見えないもの。そこで、当事者であるAさんに御協力いただき、日頃、どんなことを感じながら働いていらっしゃるのか伺いました。
 
■どのようにして、がんが見つかったのですか?
 きっかけは、人間ドックでした。受診後、病院から電話が来ました。「レントゲンで影が見つかったので、『至急』再検査を。」と。「一刻も早く」という感じでした。受診結果が電話で知らされること自体、異例のことだと思ったので、翌日に地元の病院を受診。結果、「8割の可能性で肺がんだ。すぐに切除を。」と医師に言われました。
 私は煙草を吸いません。ですから、「何で肺がんなの?」と目の前が真っ暗になり、涙が溢れて仕方がありませんでした。隣に居た配偶者の服の裾を握りしめ、「私は死んでしまうのか…」と絶望に身を震わせたことを鮮明に覚えています。
 医師によれば、喫煙者でなくても肺腺がんには罹るとのこと。悩む間もなく、2週間後に切除手術を受けました。たった2週間の間にも腫瘍は大きくなり続け、直径3センチ程に。進行がんです。
 
■手術の内容について教えてください。
 麻酔科医や主治医から説明を受けました。①成功率は100%ではないこと、②出血多量で亡くなるおそれもあること、③細心の注意を払い、執刀には万全を期すこと、④万が一の時には輸血をすることなど。手術によって命を落とすおそれが十分あるのだということを、現実に受け止めざるをえませんでした。
 手術は約4時間。傷口が大きくなる開胸手術ではなく、内視鏡を使った胸腔鏡手術です。家族が病院に来て、見守っていてくれました。術後は一日ICUへ。麻酔が切れると、ものすごい痛みに文字通り「泣き叫ぶ」状態でした。後にも先にも、あれほどの痛みを経験したことはありません。3種の強い痛み止めを使ってようやく眠り、翌日は個室に移りました。
 
■退院時の状況を教えてください。
 驚くべきことに、個室に移った日、つまり術後2日目にはリハビリ開始を指示されました。病室に医師が来て、「立ってください。」と。当然、薬の影響もあり、目が回った状態でフラフラしている私は、立つことさえできませんでした。その翌日(術後3日目)には、車椅子に乗せられてリハビリ室へ。深呼吸のリハビリが課されました。肺の1/5を切除しているため、深呼吸はおろか、しっかりと呼吸することもままならず。目の前に吊り下げられた紐に息を吹きかける動作もできない状態でした。それでも、できる限り深い呼吸をして歩けるよう、2週間の入院期間はリハビリに励みました。
 「これで治療は終了だ。」とばかり思っていた矢先、退院前日になって、主治医から「リンパ節の精密検査の結果、転移が見つかった」と告げられました。これが進行がんの進行がんたるゆえんなのでしょう。とはいえ、術後の体力回復が万全ではないため、一旦退院し、1か月後に再入院して抗がん剤治療を始めるということになりました。
 
■術後に復帰したときの状況を教えてください。
 術後2週間で、退院日翌日からいきなり職場復帰。もちろんフルタイムです。精神疾患で長期療養したときには、職場復帰訓練である程度の助走期間が設けられると聞いたことがあります。でも、身体疾患の場合には、とにかくフルタイム勤務しか選択肢がありませんでした。
 私の状態としては、呼吸も十分にはできず、肺に水も溜まり、かすれた声しか出せない状態でした。体力も回復には程遠い状況でフラフラ。けれども、私の体調の悪さは目に見えません。周囲の職員は「2週間休んでいたけど、何があったの? 声も出ていないし。」と怪訝そうな様子。けれども、私としては、「がん=死」のイメージが依然ある中、周囲に気を遣わせたくなかったため、本当のことを言えずにいました。病気のことを報告したのは、管理監督者に対してだけでした。周囲の同僚には、ただ、「急に休んですみませんでした。しばらくするとまた入院します。」とだけ挨拶するのが精一杯でした。(つづく)
 
⑥がん治療と仕事との両立(その二)
2020-06-10
――がん治療と仕事との両立②――
 
 前回は、Aさんが、人間ドック受診をきっかけに肺癌と宣告され、手術を受けた経緯について伺いました。今回は、復帰後の様子などについてお話しいただきます。
 
 
■術後2週間入院し、退院し3日後から職場復帰されたとのこと。体への負担は相当なものだったのではありませんか?
 はい。とにかくフラフラでした。正直言って、まともに働けるような状態ではありません。でも「職場復帰訓練」のような短時間勤務の制度はなく、フルタイムで復帰するよりほかありませんでした。
 まず、困ったのは「声が出ない」ということでした。私の担当業務は、直接県民と会話することが多く、中には体力の必要な仕事も含まれていました。けれども、体調は絶不調でした。ただ、幸か不幸か、外見上殆ど分からない状態でした。管理監督職員には病状を報告したものの、同僚には敢えて公表せずにいたため、フラフラになりながらも何とか再入院までの1か月を耐え抜くしかありませんでした。
 
■治療はどんな風に進んだのですか?
 最初に行ったのは、シスプラチンとナベルミンという2種の抗癌剤を「カクテル」して使う治療(多剤併用療法)です。「入院2週間+在宅療養2週間」を1クールとして、4クール繰り返すものでした。
 シスプラチンは激しい副作用を起こすのが特徴です。特に尿の量が少なくなると深刻な腎臓機能障害を引き起こすことから、1日4,000ccを目安に尿を出すことが必要とのこと。利尿剤を使う一方、絶えず水分を摂るように医師から指示されました。また、吐き気もひどかったです。食べ物がほとんど喉を通らない状況でした。さらには、骨髄抑制による白血球の減少から、感染症リスクが増大するという副作用もあり、これが最も気を遣うところでした。抗癌剤の点滴にはさほど時間がかかりません。けれども、その後、白血球の数値が基準値まで戻らなければ退院できなかったはずです。
 
■職場に復帰して戸惑ったことはありますか?
 4クール(4か月)の抗癌剤治療が終わったときは、ちょうど年度の変わり目。復帰後、新年度の分掌表を見たとき、一瞬目を疑いました。なんと、自分の分掌業務が増えていたのです。もちろん、突然の長期療養により仕事に穴を空けてしまった側としては、「楽をしたい」などとわがままを言うつもりはありませんでした。実際、慢性的な人員不足で周囲の職員にも負担がかかっていたことは重々承知していましたし。でも、抗癌剤の治療により落ちた体力は、万全とは到底言えない状態。「今の自分が本当にやっていけるのだろうか。」と不安が襲い掛かりました。
 既に、所属の管理監督職員に対しては、癌治療中であることを報告していました。けれども、その反応としては、「年齢的にも、このくらいの仕事はやってもらいたい」とか「いつから時間外勤務ができるの?」といった感じでした。「最低1か月は無理です」と答えると、「診断書を提出してもらいたい」とのこと。診断書の提出により、やっと時間外勤務への配慮が認められたという状況でした。
 シスプラチンの副作用による吐き気で、食事を十分に摂れず体重は落ちていました。ともかく疲れやすく、フラフラの状態。でも、その辛さは決して目に見えるものではありません。周囲にそれを「理解してほしい」というのは到底困難で、癌治療と仕事との両立をする者の永遠の課題となるのかもしれません。
 
 
 Aさんは、抗癌剤治療による副作用に大変苦しまれた様子。抗癌剤の副作用について、薬物の種類により異なるものの、一般に、味覚障害、動悸、脱毛、手足の痺れ、胃腸障害等の症状に苦しむ患者が多いと言われています。いずれも本人以外にはその不調を感じ取ることができず、特に職場において、丁寧な説明と調整のない状況にあっては、周囲からの理解を得ることは難しかったことでしょう。一人で不安を抱え、心細い思いをされたAさんの心情が窺われます。(つづく)
 
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●癌薬物療法(抗癌剤治療)とは
 癌に対して抗癌剤で治療を行う方法を「癌薬物療法(抗癌剤治療)」という。大きく分けて方法は2つ。抗癌剤を「服用する方法」と「注射(点滴)する方法」とがある。いずれの場合も、血液を介して抗癌剤を全身に行き渡らせることにより、癌の進行、再発を抑える効果が期待できる。
 癌の種類(大腸がん、肺癌、胃癌、乳癌など)、治療の目的、患者の状態により、使用する抗癌剤や治療期間は異なる。また、抗癌剤治療には、作用の異なる抗癌剤を数種類使用する「多剤併用療法」と1種類のみを使う「単剤療法」がある。
 
⑦がん治療と仕事との両立(その三)
2020-07-10
――がん治療と仕事との両立③――
 
 前回は、Aさんが、術後に職場復帰されたときの様子や戸惑いなどについて伺いました。今回は、再発後の治療の状況についてお話し頂きます。
 
■その後は?再発の不安は?
 職場復帰後、半年ほど経ったとき、医師から「再発」を告知されました。リンパ節に転移しているとのことでした。即、「別の薬を。」ということで、ドセタキセルとサイラムザという抗がん剤を使うことになりました。この薬ならば吐き気は出ません。けれども、脱毛や味覚障害の副作用がありました。病院食は元々薄味。「味がしない」というよりは、何だか口の中がずっと熱い感じで、何とも言い表しがたい変な感覚でした。結局、辛うじて私の体が受け付けたのは、カップ焼きそば、ゼリー、そしてヨーグルトだけでした。
 脱毛の副作用は2クール目くらいから深刻な状況でした。何しろ、頭髪がごっそり抜けるのです。このため、枕に触れただけでも頭皮が痛くて眠れないほどでした。導眠剤を飲んで辛うじて眠るものの、翌朝には枕に頭髪の塊がびっしり付いているような状態でした。脱毛といっても、きれいには抜けません。うなじや耳の上の生え際のみ中途半端に生え残り、あとはツルツルに。最初は帽子を被って出勤していましたが、同僚からも不審がられるので、思い切ってウィッグを購入しました。20万円ほどの痛い出費となりましたが、それでも職場に溶け込もうと必死でした。同僚にはまだ打ち明けられず。ともかく、変に気を遣われるのが嫌でしたし、職場で足手まといになるのも嫌でした。自分自身も、がん治療に対してネガティブなイメージしか持てなかったからだと思います。
 
■周囲の職員に病状を知らせずに働くのは大変だったのでは?
 はい、大変でした。あるとき、とても仕事が忙しい時があり、同僚に「手伝って。」と思い切って投げかけたことがありました。ところが、病名を明かしていなかったため、言われた側も受け止めが難しかったと思います。私は私で、どこまでお願いすべきか、相手としても、どこまで手伝えば良いのか分かりづらいため、結局、私自身で抱え込んでしまい、疲れ切って休んでしまうという状態でした。
 また、別の機会には、職場で弱音を吐いて「疲れた。」と口にしたこともありました。けれども、周囲の反応は「それくらいの仕事でなぜ疲れるの? みんなやっていることでしょう? 年齢的にもそれぐらいやってよ。」という感じでした。やはり、周囲に病状をオープンにしていなかったのが原因だと思います。
 
■治療は順調に進みましたか?
 ドセタキセルとサイラムザの抗がん剤投与を4クール終えて何か月か経つと、髪が生え始めました。この抗がん剤治療にあたり、最初だけ入院しましたが、あとは通院で乗り切りました。大変な苦痛を伴うものでしたが、無情にもドセタキセルは効きませんでした。というのも、その4か月後、咳が止まらなくなるという異常が表れたのです。接客業務の際、脇にペットボトルを置き、一言話すごとに水を飲んで咳を抑えるような異様な状態でした。きっと来庁した県民にも不審がられていたことでしょう。月に1回は検診していたものの、CT、レントゲンの結果、「がん性リンパ管症」と診断されました。増殖したがん細胞がリンパ管に詰まり、レントゲン写真を見ると肺が真っ白に写っていました。これが「進行がん」のしぶとさなのでしょう。
 薬が効けば、がん細胞は小さくなるかもしれません。けれども、骨髄抑制(以下参照)は必ず起こります。抗がん剤はがん細胞のみならず、新しく生まれた正常な細胞にも影響を及ぼします。私も白血球数が700個/μl程度まで落ちてしまい、敗血症で命を失うリスクがありました。成人の正常値は3,500~9,200個/μlと言われていますので、どれほど異常かが分かるでしょう。このため、抗がん剤投与の後、ジーラスタという薬を入れて急激に白血球を増やすことになります。ところが、この薬は、関節痛や頭痛など、大変な痛みを副作用として引き起こします。私たちがんサバイバー(がんを経験した人)は、痛みから即、転移の恐怖に苛まれます。私も痛みに戦慄しましたが、医師から「薬の副作用」との説明を聞き、胸を撫でおろしたのを覚えています。
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●骨髄抑制とは
 抗がん剤は、細胞分裂が活発な細胞に強く作用します。がん細胞のみならず血液を造る骨髄も、非常に細胞分裂が活発なことから抗がん剤の影響を受けやすく、このため骨髄が血液を正常に造ることができなくなります。これを「骨髄抑制」と言います。どのような症状が出るかは、血液細胞を構成する3要素である白血球・赤血球・血小板のうち、どの成分が不足するかにより異なります。抵抗力の低下・貧血・出血などの症状は、脱毛や吐き気と異なり、自分では気づきにくいこともあるため、抗がん剤治療中は、定期的な検査を行い注意深く経過観察することが必要です。
 
⑧がん治療と仕事との両立(その四)
2020-08-10
 前回は、Aさんから、抗がん剤治療による副作用などを中心に伺いました。今回は、再発を受けて治療法を変えた後の状況についてお話しいただきます。
 
■抗がん剤が効かなかったとのことですが、その後の治療はどうされたのですか。
 主治医から2つの選択肢が提示されました。一つは、カルボプラチン等3種の抗がん剤を使い、4クール入院治療すること。かなり強い薬ではあるものの、エビデンスがあるとのことでした。そしてもう一つは、最近認可された免疫療法で、最新のテセントリクという薬を使うものです。免疫療法といえば、本庶佑氏が研究・開発に携わったオプジーボが「夢の薬」として有名ですが、2割にしか効果がないとのこと。一方、テセントリクはさらに新しいタイプの薬で、エビデンスには未知数の部分があるものの、従来の薬では効果が得られなかった患者にも可能性が広がるということでした。また、他の抗がん剤に比べると副作用は多少軽いということで、「これに賭けてみよう」と入院を決意しました。
 テセントリク治療の初めの時は、副作用が感じられませんでした。以前、別の薬で苦しめられた味覚障害もありません。点滴で投薬しますが、薬を入れたかどうかも分からないくらいでした。このため、「しばらく続けてみよう」ということで、2020年7月末現在で36回投薬しています。
 
■現在の状況はいかがですか?
 体は楽です。定期的にひどい眠気や微熱に襲われることはあるものの、吐き気や脱毛もありません。でも、重大な副作用があります。それは、テセントリクによって活性化された免疫力が、がん細胞のみならず正常な細胞をも攻撃し始めるということです。結果として、間質性肺炎、糖尿病、甲状腺機能障害、膵炎等の自己免疫疾患を引き起こす可能性もあるということです。私としては、皮膚疾患(アトピーのような痒み)に悩まされました。投薬により、ずっと倦怠感が続きましたが、投薬5回目くらいで、がん性リンパ管症は消えていき、同時に、咳も収まってきました。
 
■薬が効いているのですね。今はどのように仕事と両立されていますか?
 テセントリクは3週間に1回通院して投与します。当日は1日休暇を取得し、朝一番で病院へ。7:40病院受付→血液検査→結果が出るまで約1時間待機→10:00診察→15分くらいの診察→11:00免疫療法(1時間くらい)→帰宅して午後は休養。このようなスケジュールになっています。抗がん剤治療ほどのダメージはないものの、CTもレントゲンも頻繁に撮っていますので、きっとものすごい被曝量でしょう。
 抗がん剤投与の場合には、1日目抗がん剤投与、2日目白血球を増やす注射、3日目休養とする必要があります。ただし、4クール投与した後、体から薬剤が抜ければ、味覚障害や脱毛等の副作用は消えます。
 一方、免疫療法だと、副作用の強さは多少抑えられるものの、間質性肺炎や糖尿病のリスクは高いままです。
 
■リスクを十分認識しながらも、免疫療法に踏み切った理由は何でしょうか?
 抗がん剤はミクロの単位でがん細胞を攻撃しますが、薬剤が体から抜けた後、新たに生まれてくるがん細胞には効果がありません。免疫療法は、自分の体の免疫力を活性化させてがん細胞を攻撃するものです。たしかに自己免疫力が暴走し、自分の体を攻撃し始めるリスクは無視できません。けれども、とにかく抗がん剤の副作用が嫌でした。「うんざり」というのが正直なところです。
 免疫療法は、新しく開発された方法です。新しいものに賭けてみたい、試してみようという気持ちでした。「それでダメなら、次は抗がん剤を」という感じで。現在、テセントリクは「当たり」と言えますが、寛解(かんかい)[病気の症状が軽減またはほぼ消失し、臨床的にコントロールされた状態]とまではいきません。腫瘍マーカーは依然として基準値を少し超えています。ほかにも、主治医には放射線治療を提案されていますが。
 
■読者に伝えたいことはありますか?
 検診に行って「所見あり」となった場合には、必ず精密検査を受けてほしいです。発見の遅れは死に直結しますので。早期であれば切除できる確率が高いですし、早く発見すれば早く治ります。
 私も、人間ドックで引っかかる前には自覚症状が全くありませんでした。がんが発見される2か月前には、金毘羅山に登り、息切れもなく快調でしたし。また、往復60kmを超えるような距離を自転車で元気に往復するほどでした。
 がん治療には、切除・放射線・抗がん剤・免疫療法・ゲノム医療等、様々な治療法が選択肢としてあります。まずは専門医と相談すること。ネット上には恐怖を煽るような情報も多いですが、それでもある程度は自分で情報収集することが必要だと思います。私の場合には、たまたま主治医が勧めてくれたテセントリクが功を奏しました。その選択肢がなければ、カルボプラチン3種抗がん剤しか道がなかったと思います。そうなれば、ものすごい副作用に苦しめられたに違いありません。
 
⑨がん治療と仕事との両立(その五)
2020-09-10
 これまで、Aさんからは、突然の告知から治療・再発を経て、治療に伴う苦痛に耐えながらも、働くことを模索し続ける思いについて伺ってきました。今回は、シリーズ最終回として、御本人の「素」の思いに耳を傾けたいと思います。
 
 
■現在は、どんなふうに働いていらっしゃいますか?
 普段はさほど意識していなくても、病気の不安は、ふとしたときに脳裏をかすめます。身体的には、とにかくひどい倦怠感に襲われるのですが、周囲の人に分かってもらうことはできません。気力も体力も発病前に比べれば、ことごとく「ない」状態です。「気を強く持って…」と精神力で片づけられるようなものでもありません。階段の昇降もかなり難しくなりました。特に太ももの筋力低下が著しいので、気を付けて歩く機会を作るようにはしていますが、筋力はとにかく落ちてしまいました。けれども、外見では分からないんです。
 
■確かに、お元気そうに見えますね。
 そうなんです。食事も普通に摂ることができます。元気なのに「なぜ?」と周囲から言われるわけです。そして「いつから時間外の仕事ができるの?」と。現在は主治医に診断書を書いてもらい、深夜の就業制限をつけてもらっています。日中は緊急案件にも対応していますが、仮に夜遅い時間帯に仕事をした場合にはバイオリズムを乱してしまうので。主治医とはしっかりと職場の状況についても情報共有を行い、必要に応じて診断書に細かいことも記載してもらうことにしています。もし、読者の中にも何らかの疾病の治療と仕事の両立に悩んでいる人がいたら、情報共有をしっかりすべきだと伝えたいです。
 
■気持ちのコントロールはどうされていますか。
 がんを宣告されたときは、どん底に落ちた感じでした。それ以外には言葉が見つかりません。仕事中であっても、急に真っ暗になるような。通勤移動中も急に不安に襲われ、涙が出てきて…。やはり、支えてくれる人の存在は大切です。家族とか病院の相談窓口とか、積極的に使った方が良いと思います。また、主治医に対して強がらないことも重要です。絶望感を抱いたとしても、特別なことではありません。素直に助けを求めることが必要でしょう。
 職場では、今、私の状況を周囲の職員に知らせています。ですから、3週間に1回、投薬していることも知っています。仕事は忙しいです。深夜にはならないようにしていますが、夜の9時半頃までは残業もしています。
 
■治療継続のためには、お金もかかりますね。
 そうなんです。元々入院保険は手厚くしていました。半年程度入院しても、がん保険が出たので助かりました。職場復帰して残業すると収入が上がります。標準報酬月額が上がると、医療費の限度額も引き上がることに。これが実は「イタい」ですね。
 入院中は、本当に手持ち無沙汰で仕方がなかったので、今は仕事ができることの幸せを噛みしめています。決して楽な仕事ではありませんが、突発的な業務に対しても、夜間でなければ対応しています。それにしても、資金面での通院保障は重要ですよ。本当にお金がかかりますから。
 
■最後に、県当局に対して、治療と仕事との両立を図る職員の一人として、伝えたいことはありますか。
 まず、手術・入院の後、段階的に職場復帰できるような「慣らし期間」を設定してもらいたいです。精神疾患の場合には、職場復帰訓練が設けられます。けれども、私のような身体疾患の場合には、徐々に体を慣らしていく期間が認められていません。これは本当にキツいです。また、短時間勤務制度も実現すると嬉しいです。今のところ、時短勤務と言えば子育て・介護職員のためのものという感じですが…。それから、外からは「見えない」疾病を抱えている人もいます。そんな「見えない苦しさ」への配慮ができるような組織になると嬉しいですね。
 
 
 淡々と、冷静に自身の経験を語るAさん。しかし、ここに至るまでの葛藤は計り知れません。自身の命と真正面から向き合い、毎日を生きるAさんの眼差しには、確かな意志が感じられました。「進行がんのため、手術をしても転移の可能性がある。諦めないといけないものもある。でも、当事者にしか分からないことや伝えられないことがある。今後、ピアサポーターの資格を取って同じような境遇の人を支えたい。」とのこと。県職も、Aさん同様、治療と仕事を両立する組合員を後押しすべく、県当局に対する働きかけを強めていきます。(完)
 
大人の発達障害(その一)
2018-02-10
 一方、本県に目を向けるとどうだろうか。職員一人ひとりの個性・資質は十分に活用されているか。答えは「否」だろう。職員が発達障害*2をもつ場合はなおさらだ。最近ようやくテレビ番組等で特集が組まれるようになったが、依然、広く理解を得るには至っていない。本県組織内においても同様だろう。無理解・誤解から、本人及び周囲が戸惑う場面もしばしば。そこで、当事者であるMさんへのインタビューを今号からシリーズで取り上げ、様々な課題を浮かび上がらせていく。
 
*2発達障害とは
・医学的には脳機能障害の一種で、100人に数人の割合で生じると言われる。
・知的障害を伴わないことが多い。先天的な特性であり、根本的治療法はない。
・ADHD(注意欠如多動性障害)、ASD(自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群)、LD(学習障害)の大きく3つに分かれる。
 
■―まず、読者に伝えたいことは?
私と同じように発達障害をもつ人は、県職員の中に一定数いると思います。そして、中には業務に支障を来したり、鬱症状を訴えたりすることも。また特性によっては、事故・負傷等を招きやすい場合も。とはいえ、当事者・上司等が正しく理解し、対応することができれば、確実にリスクを減らせます。けれども、現状では発達障害に対する理解不足から、職場での対応は困難なものになっています。
 
■―なるほど、適切な対応ができれば何ら支障なく活躍できる職員。でも理解不足から適応障害を起こし、副次的に鬱病等を発症するとしたら、組織にとっては大変な損失ですね。
その通りです。発達障害をもつ人は、不安障害・鬱病・依存症等にかかりやすいと言われています。いわゆる二次障害です。誰よりも深刻に悩むのは本人ですから、「何故かうまくいかない」という不安を覚えたときには、早めに医師に相談し、適切なサポートを受けることをお勧めしたいです。
 
■―Mさんは、どのような経緯で受診されたのですか?
私の場合、とにかく周りの人よりも覚えが悪く、ミスを繰り返していました。特に暗黙のルールのようなものが分からないのです。例えば、イベント等で写真を撮る場合。「前と同じように」との指示に従い、自分としては同じように写しているつもりであっても、何かが違う。どんなに気をつけてもミスを防げない。それで、「医療の力を借りて仕事をしっかり出来るようになりたい」と診断を受けました。でも現在の主治医を見つけるまでには時間がかかりました。片っ端から精神科に電話をして、発達障害の診断可否を尋ねて。でも、知的障害と混同する医師も少なくなく…。結局、医師であっても、発達障害についての理解は発展途上なのだと感じました。
 
■―医師を探すのにも一苦労なのですね。診断の結果はどのようなものでしたか?
ADHD(注意欠如多動性障害)とASD(自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群)です。正直、少しほっとしました。注意力が散漫になってしまうのは、「気合い」や「やる気」の問題ではなく、ADHDの典型的な障害特性だと分かったからです。これまでは、いくら頑張っても「ダメだ」と叱責されてばかりの自分がもどかしく、自己嫌悪に苛まれることも。でも、薬物療法を受け、主治医のサポートを受けられるようになってから、対応の余地があるのだと光が見えた気がします。
 
◆「仕事をしっかり出来るようになりたい」との前向きな気持ちから医師に相談したMさん。医療的サポートによる障害特性軽減の余地があることを知ります。次回は、その具体的な内容について紹介します。(つづく)
 
②大人の発達障害(その二)
2018-03-10
 前回に引き続き、発達障害(ADHD・自閉症スペクトラム)を持つMさんに、心の葛藤や医療的サポートの可能性等について伺った。
 
■―医療の専門家からサポートを受けるようになって、どんなことが変わりましたか?
私が受けているサポートは主に2つ。それは疾患教育と薬物療法です。定期的に開かれる勉強会を通して、発達障害の頻度・原因・症状・メカニズム等を学んでいます。これにより、自己理解が随分進みました。以前は、ただ苦しかったのですが、その原因を知ることにより楽になった気がします。それから、ADHD(注意欠如多動性障害)については有効な薬剤があるということで、私も服用しています。たしかに、薬を飲み続けたからといって「治る」ものではありません。けれども、飲む前と後とでは、全く違います。私の場合、薬を飲んでいなかった頃は、だるくて仕方がありませんでした。職場にいても、午後3時を過ぎる頃にはどうしようもなく辛い状態に。周りの職員の様子を眺めながら、どうして耐えられるのか不思議でなりませんでした。でも、薬を飲むようになってからは、これまでの辛さが嘘のように改善されています。「辛かったのは自分だけで、周りは辛くなかったのか。」と、妙に納得しました。
 
■―異常なだるさは障害特性によるものだったのですね。その他に御自身の特性として認識されていることはありますか?
はい。前回お話ししたのは暗黙のルールが理解できないということでした。これはASD(自閉症スペクトラム)の典型的な症状です。それから「AをしながらBをする」というように、同時並行で物事を進めるのも苦手です。一方、ADHDとしては、集中力不足が挙げられます。そのため、書類作成において誤字・脱字も多い。計画的に物事を遂行することも苦手です。
 
■―なるほど。特性ゆえに、業務遂行や業務管理の面で、これまで多くの葛藤をおぼえていらしたことでしょう。
そうですね。確かに、難しいとか上手くできないと感じることもあります。けれども、正確な知識を得たり工夫したりしながら、環境に適応できるように日々取り組んでいます。実際、同じ発達障害であっても、環境により障害特性が目立たなくなる、つまり社会に上手に適応していくという研究報告もあります。「医療的ケアを受けていることだし、自分でも努力を怠らなければ治るのではないか。」と誤解される方もあるようですが、残念ながら現代の医療では治ることはありません。けれども、医療及び自助努力に加え、周囲からの適切なサポートが受けられる環境が整えば、自分の得意な面を伸ばすことができると思います。例えば、私の場合、曖昧なものは苦手ですが、マニュアル化されて答えが決まっているような業務は非常に得意です。
 
■―障害者差別解消法に定められている「合理的配慮」が重要になりますね。
世間一般では、自らの障害を職場で告白すると「それを理由にして働かないつもりだな。」と解釈する傾向があるようです。つまり「障害を言い訳にする」という考え方です。けれども全く逆です。少なくとも私は、しっかり働いて組織に貢献したいです。そうであればこそ、医学的サポートを受ける道を選びました。障害を持つ職員に対する合理的配慮というと、職場側ではまず、担当業務量の軽減を前提として考えるのではないでしょうか。そのため「ただでさえ人が足りないのに、それでは困る。」と。でも、一人ひとり特性が違うので、そう決めつけてしまうのは間違いです。職場に求めたいのは、偏見を持たずに話を聞き、どうすれば職場で貢献できるか本人と一緒に考える姿勢です。
 
◆職場には、診断の有無に拘わらず、Mさんのように発達障害を持つ人もいれば、家庭や健康上の配慮を要する人もいる。文字通り、百人百様。何をどうすればチームのメンバー全員が働きやすく、かつ生産性を向上させることができるかを考えることが重要だろう。
発達障害を持つ人に対する合理的配慮は、定型発達者(発達障害のない人)にとっても、負担軽減や生産性の向上に繋がることが多いことが、専門家によって指摘されている。視点を変えて見れば、「配慮を要する人」ではなく、「組織の成長にとって鍵を握る人」という見方もできるかもしれない。次回は、医療機関で発達障害のある人をサポートする医師から話を伺う。(つづく)
 
③大人の発達障害(その三)
2018-05-11
 これまで2回にわたり、発達障害を持つMさんの心の葛藤等について掲載してきた。今回は、朝山病院(浜松市北区)の高橋長秀医師に、発達障害の特性等についてお話を伺った。
 
■発達障害の「特性」とは、どういうものでしょうか。
 発達障害は遺伝に起因するところが大きいですが、表面に現れる「特性」は誰もが持っているものです。「ここからは発達障害」という明確な線は引けませんし、特性の強弱にも個人差があります。また、環境によっては特性が強く出ることもありますが、周りのサポートが十分であれば、あまり特性が目立つことなく過ごせるということもあります。
 障害の有無に拘わらず、生活環境は誰にとっても大切なものです。そして、環境への適応に困難を感ずることの多い発達障害を持つ人にとっては、より一層、大事な要素となってきます。対応の仕方にもいろいろありますが、まず本人が自身の特性を理解すること。そして周囲も本人の得意・不得意を理解して上手く活かしてあげると、チーム力を発揮することも多いです。主な症状としては、次のようなものがあります。従来、発達障害は子どもの疾患で、成長するにつれて改善すると考えられていました。けれども、近年の研究で、発達障害患者の50~70%は、成人になっても症状が持続していることが明らかに。学生時代は何とか乗り切っても、就労後に不適応を起こし、そのベースに発達障害があることに気づかれることも。また、しばしば2次障害(気分障害・不安障害等)を呈し、ベースに発達障害があることを踏まえて治療を行わないと、2次障害が改善しないこともあります。
 
 
■発達障害を持つ人が、自身の健康・安全を守るために気を付けるべき点は何でしょうか。
 発達障害を持っている人は、睡眠のリズムが乱れやすいので規則正しい生活を心がけることが必要です。また、セルフコントロールが苦手で、自分自身で「疲れている」とか「余裕をなくしている」とか認識するのが上手ではありません。ですから、定期的なストレス解消と休息がより重要になってきます。それから、中でもADHDの人には交通事故が多いというデータもあります。集中力不足等の特性が影響しているのかもしれません。とはいえ、ADHDには有効な治療薬が2種類あります。薬により、集中力の維持や動作の取りかかりの悪さには改善がみられるでしょう。実際、内服により、交通事故が40%減ったというデータも。また、ADHD患者の鬱病の発症・再発状況を調査したところ、3年間治療を継続している場合には、発症リスクが約40%減少したという研究もあります。
 
■発達障害を持っている人の割合はどれくらいですか。
 自閉症スペクトラムもしくはアスペルガー症候群は1%。子どもと成人とには違いがなく男女比は4対1です。ADHDは子どもの5%、成人の2・5%に見られ、男女比は子ども2対1、成人1対1です。学習障害は子どもの5~15%、成人の4%に見られ、男女比は2~3対1です。「障害」とはいえ、ある種「体質」のようなもので、十分なサポートさえあれば見事に能力を開花させ、実業家・芸術家・俳優・研究者・スポーツ選手・タレント等、様々な分野で活躍している人も数多くいます。
 
◆高橋医師によると、「必ず医療機関を受診すべきだ」ということではないとのこと。けれども、きちんと診断を受けて自身の特性を知るだけでも「ほっとした」という人が多いという。確かに、受け容れることには時間がかかるかもしれない。しかしながら、適切な医療的サポートを受けることで2次障害等を回避することができるならば、信頼できる医療機関を受診することは重要な選択肢の一つと言えるだろう。次回は、環境への適応方法等について伺う。
 
④大人の発達障害(その四)
2018-06-12
 発達障害は遺伝に起因するところが大きく、表面に現れる「特性」は誰もが持っているという。適切な医療的サポートにより、2次障害等を回避したり、環境適応のしづらさを改善したりすることができるとのことだが、職場ではどういう対応が考えられるのか。前回に引き続き、高橋長秀医師(朝山病院)に伺った。
 
■-不得意をなくすため、「根性」や「努力」を賞賛する教育もあるようですが…。
 発達障害は根性論で改善するものではありません。障害当事者(本人)を追い詰める場合もあるので、むしろ得意なところを伸ばすようにした方が良いと思います。そうすると周囲の評価も変わりますし。上司をはじめ周囲がそれを理解してあげるといいですね。ただ、周囲がサポートする際には、一人に負担が集中しないよう工夫することが必要です。そうでないと、周囲も疲弊してしまいますので。前回もお話ししたように、発達障害は環境によって大きな影響を受けます。つまり、不得意な世界で生活しなければ上手くやっていくことができるということです。とはいえ、障害を理由に、全てが許される訳ではありません。自分の特性をよく知り、周囲から適切なサポートを受けながら、得意な点を伸ばしていくことが大切です。これは治療を考える上でも共通すること。医療機関における発達障害の治療は、環境調整や新たな能力の獲得により、本人のパフォーマンスを「底上げ」して伸ばしていくことが目標です。少なくとも現在の医療では治りませんので、失った機能を取り戻すことを目指しているわけではありません。
 
■-本人に自覚がなくても、周囲が本人の言動で困っているときには、どのように本人に伝えたら良いのでしょうか。
 いきなり上司が「病院へ行け」というのは駄目でしょうね。まず、色々と職場で工夫してみた上で、「~は得意だけれど、~は苦手かもしれないね」という話ができると良いと思います。そして「もしかしたら、~ということで困っていませんか? 今は医療的にも対応できるみたいですよ」と。日頃から関係性ができていないと、話しづらいかもしれませんが。逆に、例えば「あなたは生産性がとても低い」というデータを突きつけて受診を勧めても、本人には受け容れられないし、被害者意識が強まってしまうでしょう。それから、職場で話題にしたり、メンタルヘルス研修などで学んだりして、職場での発達障害の認知度が上がれば、診察へのハードルも下がるかもしれませんね。
 
■-職場での発達障害の認知度が上がると、どんな効果があるでしょうか。
 うつ病の3分の1は薬が反応しないと言われています。いわゆる「治らないうつ病」ですが、この場合、そのうちの半分ぐらいは発達障害がベースにあるのではないかと言われています。もしも発達障害としてきちんと対応ができれば、改善の余地もあるでしょう。また、発達障害がある場合、かなりの割合で2次障害として気分障害(主にうつ病)や不安障害を併存させています。そして睡眠障害を併発するリスクも高く生活リズムの乱れから、日中の過度な眠気や入眠困難等が表れやすいです。このため、発達障害を持たない人よりも一層、規則正しい生活を送り、生活リズムを崩さないように気を付ける必要があります。
 
■-2016年4月施行の「障害者差別解消法」により、「合理的配慮」の提供が行政や事業者に義務化されましたが…。
 職場における合理的配慮については、まず本人が、周囲にどうしてもらったら、自分が上手く力を発揮できるかを申し出なければなりません。ただ「どうしてもらったら」という部分を、本人が理解しているかということが問題です。自己理解が進んでいないと、周囲に伝えることが余計に難しくなります。また、本人のコミュニケーション能力に支障があり、何に困っているか周囲に伝わらないこともありますし、反対に、本人は困っていないけれど周囲が本人の言動により困っていることもあります。さらに、周囲の職員にも余裕がなく、自分のことで精一杯であることも。職場において合理的配慮を求める際には、職場と本人との間に第三者が介在し、調整する役割を果たせると良いですね。産業医と連携したり、保健師が業務内容の調整を行ったりしている例もあります。他には、ジョブコーチ、経験を積んだキャリアコンサルタント等に協力してもらう可能性もありますね。それから、発達障害に対する合理的配慮の事例は、内閣府のホームページにも掲載されています。発達障害に特化した情報というわけではありませんが、他の疾患を含め、とても良い合理的配慮のデータがまとまっていますよ。

◆-温湿度・照度・騒音・匂い等、感覚過敏に配慮し、健康を害することがないように体調管理をしっかり行い、業務においてはミスを防ぐべくチェック体制を構築する―個別の調整は別に行うとしても、発達障害への配慮は、間違いなく発達障害がない人に対しても良い職場の要件となりうるはずだ。確かに、慢性的な人員不足と長時間勤務に喘ぐ職場の職員に対し、一方的に配慮を求めるとしたら職員の分断を生じかねない。しかし、ならば一層、職場の管理監督職員が核となり、部下の一人ひとりを「人財」として活用する組織運営をすべきだろう。多様な人材を「財」として活用できる組織であればこそ、この地域に暮らす住民の多様なニーズに応え、支えていけるのではないか。
(大人の発達障害 終わり)
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