静岡県職員組合
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大人の発達障害(その一)
2018-02-10
 少子高齢化を背景として、現代日本は労働力人口激減の危機に瀕している。労働者一人あたりの生産性の向上は、直面する労働力不足を乗り切るための必須の条件。同時に、優秀な労働力を確保するため、経営側としては働きやすい環境づくりに目を向けることが重要な課題だ。そして近年注目されているのが、経営戦略としてのダイバーシティ*。「多様性こそが強み」。多様な人材を活用し、組織の活性化に結び付ける企業が増加している。 
 一方、本県に目を向けるとどうだろうか。職員一人ひとりの個性・資質は十分に活用されているか。答えは「否」だろう。職員が発達障害*2をもつ場合はなおさらだ。最近ようやくテレビ番組等で特集が組まれるようになったが、依然、広く理解を得るには至っていない。本県組織内においても同様だろう。無理解・誤解から、本人及び周囲が戸惑う場面もしばしば。そこで、当事者であるMさんへのインタビューを今号からシリーズで取り上げ、様々な課題を浮かび上がらせていく。
 
*2発達障害とは
・医学的には脳機能障害の一種で、100人に数人の割合で生じると言われる。
・知的障害を伴わないことが多い。先天的な特性であり、根本的治療法はない。
・ADHD(注意欠如多動性障害)、ASD(自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群)、LD(学習障害)の大きく3つに分かれる。
 
■―まず、読者に伝えたいことは?
私と同じように発達障害をもつ人は、県職員の中に一定数いると思います。そして、中には業務に支障を来したり、鬱症状を訴えたりすることも。また特性によっては、事故・負傷等を招きやすい場合も。とはいえ、当事者・上司等が正しく理解し、対応することができれば、確実にリスクを減らせます。けれども、現状では発達障害に対する理解不足から、職場での対応は困難なものになっています。
 
■―なるほど、適切な対応ができれば何ら支障なく活躍できる職員。でも理解不足から適応障害を起こし、副次的に鬱病等を発症するとしたら、組織にとっては大変な損失ですね。
その通りです。発達障害をもつ人は、不安障害・鬱病・依存症等にかかりやすいと言われています。いわゆる二次障害です。誰よりも深刻に悩むのは本人ですから、「何故かうまくいかない」という不安を覚えたときには、早めに医師に相談し、適切なサポートを受けることをお勧めしたいです。
 
■―Mさんは、どのような経緯で受診されたのですか?
私の場合、とにかく周りの人よりも覚えが悪く、ミスを繰り返していました。特に暗黙のルールのようなものが分からないのです。例えば、イベント等で写真を撮る場合。「前と同じように」との指示に従い、自分としては同じように写しているつもりであっても、何かが違う。どんなに気をつけてもミスを防げない。それで、「医療の力を借りて仕事をしっかり出来るようになりたい」と診断を受けました。でも現在の主治医を見つけるまでには時間がかかりました。片っ端から精神科に電話をして、発達障害の診断可否を尋ねて。でも、知的障害と混同する医師も少なくなく…。結局、医師であっても、発達障害についての理解は発展途上なのだと感じました。
 
■―医師を探すのにも一苦労なのですね。診断の結果はどのようなものでしたか?
ADHD(注意欠如多動性障害)とASD(自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群)です。正直、少しほっとしました。注意力が散漫になってしまうのは、「気合い」や「やる気」の問題ではなく、ADHDの典型的な障害特性だと分かったからです。これまでは、いくら頑張っても「ダメだ」と叱責されてばかりの自分がもどかしく、自己嫌悪に苛まれることも。でも、薬物療法を受け、主治医のサポートを受けられるようになってから、対応の余地があるのだと光が見えた気がします。
 
◆「仕事をしっかり出来るようになりたい」との前向きな気持ちから医師に相談したMさん。医療的サポートによる障害特性軽減の余地があることを知ります。次回は、その具体的な内容について紹介します。(つづく)
 
②大人の発達障害(その二)
2018-03-10
 前回に引き続き、発達障害(ADHD・自閉症スペクトラム)を持つMさんに、心の葛藤や医療的サポートの可能性等について伺った。
 
■―医療の専門家からサポートを受けるようになって、どんなことが変わりましたか?
私が受けているサポートは主に2つ。それは疾患教育と薬物療法です。定期的に開かれる勉強会を通して、発達障害の頻度・原因・症状・メカニズム等を学んでいます。これにより、自己理解が随分進みました。以前は、ただ苦しかったのですが、その原因を知ることにより楽になった気がします。それから、ADHD(注意欠如多動性障害)については有効な薬剤があるということで、私も服用しています。たしかに、薬を飲み続けたからといって「治る」ものではありません。けれども、飲む前と後とでは、全く違います。私の場合、薬を飲んでいなかった頃は、だるくて仕方がありませんでした。職場にいても、午後3時を過ぎる頃にはどうしようもなく辛い状態に。周りの職員の様子を眺めながら、どうして耐えられるのか不思議でなりませんでした。でも、薬を飲むようになってからは、これまでの辛さが嘘のように改善されています。「辛かったのは自分だけで、周りは辛くなかったのか。」と、妙に納得しました。
 
■―異常なだるさは障害特性によるものだったのですね。その他に御自身の特性として認識されていることはありますか?
はい。前回お話ししたのは暗黙のルールが理解できないということでした。これはASD(自閉症スペクトラム)の典型的な症状です。それから「AをしながらBをする」というように、同時並行で物事を進めるのも苦手です。一方、ADHDとしては、集中力不足が挙げられます。そのため、書類作成において誤字・脱字も多い。計画的に物事を遂行することも苦手です。
 
■―なるほど。特性ゆえに、業務遂行や業務管理の面で、これまで多くの葛藤をおぼえていらしたことでしょう。
そうですね。確かに、難しいとか上手くできないと感じることもあります。けれども、正確な知識を得たり工夫したりしながら、環境に適応できるように日々取り組んでいます。実際、同じ発達障害であっても、環境により障害特性が目立たなくなる、つまり社会に上手に適応していくという研究報告もあります。「医療的ケアを受けていることだし、自分でも努力を怠らなければ治るのではないか。」と誤解される方もあるようですが、残念ながら現代の医療では治ることはありません。けれども、医療及び自助努力に加え、周囲からの適切なサポートが受けられる環境が整えば、自分の得意な面を伸ばすことができると思います。例えば、私の場合、曖昧なものは苦手ですが、マニュアル化されて答えが決まっているような業務は非常に得意です。
 
■―障害者差別解消法に定められている「合理的配慮」が重要になりますね。
世間一般では、自らの障害を職場で告白すると「それを理由にして働かないつもりだな。」と解釈する傾向があるようです。つまり「障害を言い訳にする」という考え方です。けれども全く逆です。少なくとも私は、しっかり働いて組織に貢献したいです。そうであればこそ、医学的サポートを受ける道を選びました。障害を持つ職員に対する合理的配慮というと、職場側ではまず、担当業務量の軽減を前提として考えるのではないでしょうか。そのため「ただでさえ人が足りないのに、それでは困る。」と。でも、一人ひとり特性が違うので、そう決めつけてしまうのは間違いです。職場に求めたいのは、偏見を持たずに話を聞き、どうすれば職場で貢献できるか本人と一緒に考える姿勢です。
 
◆職場には、診断の有無に拘わらず、Mさんのように発達障害を持つ人もいれば、家庭や健康上の配慮を要する人もいる。文字通り、百人百様。何をどうすればチームのメンバー全員が働きやすく、かつ生産性を向上させることができるかを考えることが重要だろう。
発達障害を持つ人に対する合理的配慮は、定型発達者(発達障害のない人)にとっても、負担軽減や生産性の向上に繋がることが多いことが、専門家によって指摘されている。視点を変えて見れば、「配慮を要する人」ではなく、「組織の成長にとって鍵を握る人」という見方もできるかもしれない。次回は、医療機関で発達障害のある人をサポートする医師から話を伺う。(つづく)
 
③大人の発達障害(その三)
2018-05-11
 これまで2回にわたり、発達障害を持つMさんの心の葛藤等について掲載してきた。今回は、朝山病院(浜松市北区)の高橋長秀医師に、発達障害の特性等についてお話を伺った。
 
■発達障害の「特性」とは、どういうものでしょうか。
 発達障害は遺伝に起因するところが大きいですが、表面に現れる「特性」は誰もが持っているものです。「ここからは発達障害」という明確な線は引けませんし、特性の強弱にも個人差があります。また、環境によっては特性が強く出ることもありますが、周りのサポートが十分であれば、あまり特性が目立つことなく過ごせるということもあります。
 障害の有無に拘わらず、生活環境は誰にとっても大切なものです。そして、環境への適応に困難を感ずることの多い発達障害を持つ人にとっては、より一層、大事な要素となってきます。対応の仕方にもいろいろありますが、まず本人が自身の特性を理解すること。そして周囲も本人の得意・不得意を理解して上手く活かしてあげると、チーム力を発揮することも多いです。主な症状としては、次のようなものがあります。従来、発達障害は子どもの疾患で、成長するにつれて改善すると考えられていました。けれども、近年の研究で、発達障害患者の50~70%は、成人になっても症状が持続していることが明らかに。学生時代は何とか乗り切っても、就労後に不適応を起こし、そのベースに発達障害があることに気づかれることも。また、しばしば2次障害(気分障害・不安障害等)を呈し、ベースに発達障害があることを踏まえて治療を行わないと、2次障害が改善しないこともあります。
 
 
■発達障害を持つ人が、自身の健康・安全を守るために気を付けるべき点は何でしょうか。
 発達障害を持っている人は、睡眠のリズムが乱れやすいので規則正しい生活を心がけることが必要です。また、セルフコントロールが苦手で、自分自身で「疲れている」とか「余裕をなくしている」とか認識するのが上手ではありません。ですから、定期的なストレス解消と休息がより重要になってきます。それから、中でもADHDの人には交通事故が多いというデータもあります。集中力不足等の特性が影響しているのかもしれません。とはいえ、ADHDには有効な治療薬が2種類あります。薬により、集中力の維持や動作の取りかかりの悪さには改善がみられるでしょう。実際、内服により、交通事故が40%減ったというデータも。また、ADHD患者の鬱病の発症・再発状況を調査したところ、3年間治療を継続している場合には、発症リスクが約40%減少したという研究もあります。
 
■発達障害を持っている人の割合はどれくらいですか。
 自閉症スペクトラムもしくはアスペルガー症候群は1%。子どもと成人とには違いがなく男女比は4対1です。ADHDは子どもの5%、成人の2・5%に見られ、男女比は子ども2対1、成人1対1です。学習障害は子どもの5~15%、成人の4%に見られ、男女比は2~3対1です。「障害」とはいえ、ある種「体質」のようなもので、十分なサポートさえあれば見事に能力を開花させ、実業家・芸術家・俳優・研究者・スポーツ選手・タレント等、様々な分野で活躍している人も数多くいます。
 
◆高橋医師によると、「必ず医療機関を受診すべきだ」ということではないとのこと。けれども、きちんと診断を受けて自身の特性を知るだけでも「ほっとした」という人が多いという。確かに、受け容れることには時間がかかるかもしれない。しかしながら、適切な医療的サポートを受けることで2次障害等を回避することができるならば、信頼できる医療機関を受診することは重要な選択肢の一つと言えるだろう。次回は、環境への適応方法等について伺う。
 
④大人の発達障害(その四)
2018-06-12
 発達障害は遺伝に起因するところが大きく、表面に現れる「特性」は誰もが持っているという。適切な医療的サポートにより、2次障害等を回避したり、環境適応のしづらさを改善したりすることができるとのことだが、職場ではどういう対応が考えられるのか。前回に引き続き、高橋長秀医師(朝山病院)に伺った。
 
■-不得意をなくすため、「根性」や「努力」を賞賛する教育もあるようですが…。
 発達障害は根性論で改善するものではありません。障害当事者(本人)を追い詰める場合もあるので、むしろ得意なところを伸ばすようにした方が良いと思います。そうすると周囲の評価も変わりますし。上司をはじめ周囲がそれを理解してあげるといいですね。ただ、周囲がサポートする際には、一人に負担が集中しないよう工夫することが必要です。そうでないと、周囲も疲弊してしまいますので。前回もお話ししたように、発達障害は環境によって大きな影響を受けます。つまり、不得意な世界で生活しなければ上手くやっていくことができるということです。とはいえ、障害を理由に、全てが許される訳ではありません。自分の特性をよく知り、周囲から適切なサポートを受けながら、得意な点を伸ばしていくことが大切です。これは治療を考える上でも共通すること。医療機関における発達障害の治療は、環境調整や新たな能力の獲得により、本人のパフォーマンスを「底上げ」して伸ばしていくことが目標です。少なくとも現在の医療では治りませんので、失った機能を取り戻すことを目指しているわけではありません。
 
■-本人に自覚がなくても、周囲が本人の言動で困っているときには、どのように本人に伝えたら良いのでしょうか。
 いきなり上司が「病院へ行け」というのは駄目でしょうね。まず、色々と職場で工夫してみた上で、「~は得意だけれど、~は苦手かもしれないね」という話ができると良いと思います。そして「もしかしたら、~ということで困っていませんか? 今は医療的にも対応できるみたいですよ」と。日頃から関係性ができていないと、話しづらいかもしれませんが。逆に、例えば「あなたは生産性がとても低い」というデータを突きつけて受診を勧めても、本人には受け容れられないし、被害者意識が強まってしまうでしょう。それから、職場で話題にしたり、メンタルヘルス研修などで学んだりして、職場での発達障害の認知度が上がれば、診察へのハードルも下がるかもしれませんね。
 
■-職場での発達障害の認知度が上がると、どんな効果があるでしょうか。
 うつ病の3分の1は薬が反応しないと言われています。いわゆる「治らないうつ病」ですが、この場合、そのうちの半分ぐらいは発達障害がベースにあるのではないかと言われています。もしも発達障害としてきちんと対応ができれば、改善の余地もあるでしょう。また、発達障害がある場合、かなりの割合で2次障害として気分障害(主にうつ病)や不安障害を併存させています。そして睡眠障害を併発するリスクも高く生活リズムの乱れから、日中の過度な眠気や入眠困難等が表れやすいです。このため、発達障害を持たない人よりも一層、規則正しい生活を送り、生活リズムを崩さないように気を付ける必要があります。
 
■-2016年4月施行の「障害者差別解消法」により、「合理的配慮」の提供が行政や事業者に義務化されましたが…。
 職場における合理的配慮については、まず本人が、周囲にどうしてもらったら、自分が上手く力を発揮できるかを申し出なければなりません。ただ「どうしてもらったら」という部分を、本人が理解しているかということが問題です。自己理解が進んでいないと、周囲に伝えることが余計に難しくなります。また、本人のコミュニケーション能力に支障があり、何に困っているか周囲に伝わらないこともありますし、反対に、本人は困っていないけれど周囲が本人の言動により困っていることもあります。さらに、周囲の職員にも余裕がなく、自分のことで精一杯であることも。職場において合理的配慮を求める際には、職場と本人との間に第三者が介在し、調整する役割を果たせると良いですね。産業医と連携したり、保健師が業務内容の調整を行ったりしている例もあります。他には、ジョブコーチ、経験を積んだキャリアコンサルタント等に協力してもらう可能性もありますね。それから、発達障害に対する合理的配慮の事例は、内閣府のホームページにも掲載されています。発達障害に特化した情報というわけではありませんが、他の疾患を含め、とても良い合理的配慮のデータがまとまっていますよ。

◆-温湿度・照度・騒音・匂い等、感覚過敏に配慮し、健康を害することがないように体調管理をしっかり行い、業務においてはミスを防ぐべくチェック体制を構築する―個別の調整は別に行うとしても、発達障害への配慮は、間違いなく発達障害がない人に対しても良い職場の要件となりうるはずだ。確かに、慢性的な人員不足と長時間勤務に喘ぐ職場の職員に対し、一方的に配慮を求めるとしたら職員の分断を生じかねない。しかし、ならば一層、職場の管理監督職員が核となり、部下の一人ひとりを「人財」として活用する組織運営をすべきだろう。多様な人材を「財」として活用できる組織であればこそ、この地域に暮らす住民の多様なニーズに応え、支えていけるのではないか。
(大人の発達障害 終わり)
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