少子高齢化を背景として、現代日本は労働力人口激減の危機に瀕している。労働者一人あたりの生産性の向上は、直面する労働力不足を乗り切るための必須の条件。同時に、優秀な労働力を確保するため、経営側としては働きやすい環境づくりに目を向けることが重要な課題だ。そして近年注目されているのが、経営戦略としてのダイバーシティ*。「多様性こそが強み」。多様な人材を活用し、組織の活性化に結び付ける企業が増加している。
一方、本県に目を向けるとどうだろうか。職員一人ひとりの個性・資質は十分に活用されているか。答えは「否」だろう。職員が発達障害*2をもつ場合はなおさらだ。最近ようやくテレビ番組等で特集が組まれるようになったが、依然、広く理解を得るには至っていない。本県組織内においても同様だろう。無理解・誤解から、本人及び周囲が戸惑う場面もしばしば。そこで、当事者であるMさんへのインタビューを今号からシリーズで取り上げ、様々な課題を浮かび上がらせていく。
*2発達障害とは
・医学的には脳機能障害の一種で、100人に数人の割合で生じると言われる。
・知的障害を伴わないことが多い。先天的な特性であり、根本的治療法はない。
・ADHD(注意欠如多動性障害)、ASD(自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群)、LD(学習障害)の大きく3つに分かれる。
■―まず、読者に伝えたいことは?
私と同じように発達障害をもつ人は、県職員の中に一定数いると思います。そして、中には業務に支障を来したり、鬱症状を訴えたりすることも。また特性によっては、事故・負傷等を招きやすい場合も。とはいえ、当事者・上司等が正しく理解し、対応することができれば、確実にリスクを減らせます。けれども、現状では発達障害に対する理解不足から、職場での対応は困難なものになっています。
■―なるほど、適切な対応ができれば何ら支障なく活躍できる職員。でも理解不足から適応障害を起こし、副次的に鬱病等を発症するとしたら、組織にとっては大変な損失ですね。
その通りです。発達障害をもつ人は、不安障害・鬱病・依存症等にかかりやすいと言われています。いわゆる二次障害です。誰よりも深刻に悩むのは本人ですから、「何故かうまくいかない」という不安を覚えたときには、早めに医師に相談し、適切なサポートを受けることをお勧めしたいです。
■―Mさんは、どのような経緯で受診されたのですか?
私の場合、とにかく周りの人よりも覚えが悪く、ミスを繰り返していました。特に暗黙のルールのようなものが分からないのです。例えば、イベント等で写真を撮る場合。「前と同じように」との指示に従い、自分としては同じように写しているつもりであっても、何かが違う。どんなに気をつけてもミスを防げない。それで、「医療の力を借りて仕事をしっかり出来るようになりたい」と診断を受けました。でも現在の主治医を見つけるまでには時間がかかりました。片っ端から精神科に電話をして、発達障害の診断可否を尋ねて。でも、知的障害と混同する医師も少なくなく…。結局、医師であっても、発達障害についての理解は発展途上なのだと感じました。
■―医師を探すのにも一苦労なのですね。診断の結果はどのようなものでしたか?
ADHD(注意欠如多動性障害)とASD(自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群)です。正直、少しほっとしました。注意力が散漫になってしまうのは、「気合い」や「やる気」の問題ではなく、ADHDの典型的な障害特性だと分かったからです。これまでは、いくら頑張っても「ダメだ」と叱責されてばかりの自分がもどかしく、自己嫌悪に苛まれることも。でも、薬物療法を受け、主治医のサポートを受けられるようになってから、対応の余地があるのだと光が見えた気がします。
◆「仕事をしっかり出来るようになりたい」との前向きな気持ちから医師に相談したMさん。医療的サポートによる障害特性軽減の余地があることを知ります。次回は、その具体的な内容について紹介します。(つづく)